
中国弁護士として数百件の案件を扱ってきましたが、その半数以上が債務回収に関する債権債務紛争です。多くの案件では最終的に債務を回収できましたが、中には数年を要し、依頼者が多大な時間と費用を費やしたケースもありました。本稿では、法的手段による債権回収の要点と実現可能性について解説します。
1. なぜ法的手段で債権回収を行うのか
「訴訟は無駄だ。俺があの兄貴を呼んで直接取り立てに行く」と主張する依頼者がよくいます。いわゆる「知り合いの取り立て屋」とは、往々にしてグレーゾーンで活動する暴力団関係者のことで、彼らの手段は電話嫌がらせ、自宅への脅迫訪問、債務者への尾行などに過ぎません。債務者が警察に通報した場合、結果として取り立て屋が行政拘留されるだけでなく、依頼人も巻き込まれ、深刻な場合にはその後の合法的な手段による債権回収に影響を及ぼす可能性があります。最悪の場合、依頼人自身が取り立て屋と共に拘置所に入る事態にもなりかねません。
2.弁護士からの警告書は効果があるのか
筆者の経験上、個別に送付する警告書は効果が限定的であり、単一の債務者に対して送っても、基本的に返済されることはない。しかし債務者が複数いる場合、一斉に警告書を送付すれば、一定の確率で一部債権を回収できる可能性があります。警告書はコストが低く、これによって債権を回収できれば、長引く訴訟手続きや高額な訴訟費用を回避でき、状況によっては費用対効果の高い紛争解決手段となり得ます。
3. 訴訟前の裁判所の調停は有効か
中国では訴訟前の調停の目的は裁判官の負担軽減と、訴訟開始前の和解成立にあります。しかし実務では調停が長期化して決着せず、原告の時間を浪費するケースが多いです。さらに調停人が被告に電話連絡するため、被告が事前に財産を隠すする可能性がある。また、調停人が自身の業績のために原告に安易な訴え取下げを勧めるケースもあります。筆者は裁判所の調停に過度な期待を抱かないことをお勧めします。被告に資産移転による執行回避の可能性がある場合、速やかに被告の資産取り押さえ措置を講じるべきです。
4. 訴訟受付後、どれくらいで審理が開かれるか
筆者の経験によれば、中国の各裁判所における事件受理数は地域によって大きく異なり、事件数が少ない地域では受理後1~2ヶ月で審理が開かれる場合もあります。しかし大半の裁判所は事件を抱えており、受付後3ヶ月、場合によっては半年以上待たされることもあります。また、地方の小規模裁判所では事件数が少ないから案件処理が早いと安易に考えるべきではありません。筆者は小さい地方都市の裁判所では半年後の開廷を告げられた経験がある一方、大都市の中心部の裁判所では立案翌月に開廷したことも経験したことがあります。
5.開廷後、判決までどのくらいかかるか
初回開廷から最終判決まで通常3ヶ月から半年を要します。途中で問題が生じた場合、第一審判決を得るまでに1年以上の長期化も考えられます。訴訟の長期化は世界中の裁判所が抱える共通の難題であり、俗に言う「夜が長ければ夢も多し」の通り、
長期化は多くの意外を招きます。筆者は、当事者は紛争発生前に予防的なリスク意識を持ち、取引ごとに弁護士の法的助言を求めるべきだと考えます。また弁護士たちも様々な手段を活用し、開廷前に原告・被告双方の紛争解決を図り、双方の訴訟負担を軽減するとともに国の司法資源を節約すべきだと思います。
6. 契約書や借用書などの証拠があれば必ず勝てるのか
弁護士に相談に来る当事者の中には、契約書や借用書などの書面証拠があるため、提訴すれば必ず勝てると楽観視している者が居ます。しかし現実はそうではありません。一般的に被告が出廷して応訴する場合、原告が提出した証拠の真実性・合法性・関連性を全面的に否認します。さらに被告は弁護士を雇い法的抗弁を行うため、被告の署名・捺印がある書面証拠があっても安易に楽観視すべきではありません。中国では絶対に勝訴する事件など存在しません。
7.中国弁護士は民事・商事訴訟においてどのような役割を果たすか
訴訟において、中国弁護士が果たす主な役割は以下の通りである。1.当事者と共に証拠を収集・整理します。2.事件の実情に基づき、案件の結果を予測します。3.裁判所職員と連絡を取り、事件が法定手続きに従って円滑に進行するよう調整します。
4.法廷において相手方当事者及びその弁護士と論争し、裁判官が事件の真相を明らかにできるようにします。5.事件の必要性に応じて裁判官に関連法規や判例を示し、裁判官が法を正しく適用し誤判を回避できるようにします。6.事件の必要性に応じて裁判所へ調査令状を申請し、関連機関へ赴いて調査・証拠収集を行い、新たな重要証拠を収集します。中国では、ほとんどの事件において、勤勉で職責を全うする弁護士の関与は判決結果に大きく影響し、同時に当事者の訴訟負担を大幅に軽減できます。特に調査権は中国弁護士法が弁護士に与えた法定権力であり、大多数の中国企業・公的機関は弁護士の調査取証活動に協力します。筆者も多くの複雑な訴訟事件において、調査権を活用し、重要証拠を獲得した後、これに基づいて勝訴した経験があります。
8. 調停調書または判決書を取得した後、相手方が履行しない場合の対応
現実には、一部の被告人の道徳レベルが低く、敗訴後に財産を隠して確定調停調書・判決書の履行を拒むケースがあります。原告が裁判所に強制執行を申請しても、様々な理由で被告の執行可能財産が見つからない場合があります。筆者はまず速やかに強制執行を申請すべきだと提言します。一部の申請者は「被執行者に今は金がなくとも将来お金を持つかもしれない」と考え、後日の執行申請を待つが、筆者の経験上、このような状況では被執行者の財産はますます減少する傾向にあります。したがって申請者は速やかに裁判所の強制執行を申請すべきです。また、万が一裁判所が執行対象者の財産を見つけられない場合、速やかに弁護士の助けを求めるべきです。強制執行事件において中国弁護士は裁判所と同等の権力を持たないが、弁護士は申請者から報酬を受け取るため、より一層尽力して申請者の利益を守ることが多いです。