国境を越える信頼
第1章 依頼者が現れる前に書き始めた理由
『国境を越える信頼』シリーズ掲載記事
誰にも知られていなかった一つのウェブサイト
私が初めて英語で中国法に関する記事を書いたとき、それを読む人はほとんどいませんでした。
その記事を掲載したのは、xuzhousoft.comというウェブサイトでした。
このドメインは、私が弁護士になる以前、数人の共同創業者とともにソフトウェア会社を立ち上げた際に取得したものです。
その記事を書いた頃、私は中国で独立開業して間もない弁護士でした。
海外での知名度はありませんでした。
もちろん、外国の企業が私の記事を読むとは思ってもいませんでした。
それでも私は記事を書きました。
そして、もう一本。
さらにもう一本。
なぜ英語で書こうと思ったのか
「なぜ中国語ではなく英語で書いたのですか。」
そう聞かれることがあります。
答えはとても単純です。
私は、中国企業よりも外国企業のほうが、中国法について実務的な情報を必要としていると考えていたからです。
中国企業には中国人弁護士がいます。
中国語で相談できます。
制度も文化も理解しています。
しかし、外国企業は違います。
言葉の壁があります。
法律制度の違いがあります。
商習慣の違いがあります。
そして何より、
信頼できる中国の弁護士を見つけること自体が容易ではありません。
学術論文では答えられない質問
当時、私は英語で書かれた中国法に関する多くの記事を読みました。
その多くは大学の研究者や国際法律事務所によるものでした。
私は学術研究を非常に尊敬しています。
しかし、外国企業が知りたいことは、多くの場合、学術的な議論ではありませんでした。
彼らが知りたかったのは、
「中国の取引先が契約を守らなかったらどうすればよいのか。」
「代金は回収できるのか。」
「中国で訴えるべきなのか。」
「どのような証拠を残すべきなのか。」
「中国の裁判所では実際にどのように事件が進むのか。」
こうした疑問です。
これらは法律条文を紹介するだけでは答えられません。
実務経験が必要です。
私はその実務家としての視点を書きたいと思いました。
依頼を受ける前に人を助ける
当時、私は依頼者を増やそうと思っていたわけではありません。
個人ブランドを作ろうとも考えていませんでした。
ただ、中国でビジネスを行う外国企業が、中国の法律や商習慣をより正しく理解できるようになればよいと思っていました。
もし一本の記事によって、一社でも大きな失敗を避けられるなら、それだけで書く価値がある。
私はそう考えていました。
誰かが読むかどうかは分かりませんでした。
それでも、いつかどこかで誰かの役に立つかもしれない。
そう信じて書き続けました。
最初の海外からの問い合わせ
ある日、一社の外国企業から問い合わせが届きました。
私が最初に感じたのは喜びではありませんでした。
「本当に実在する会社なのだろうか。」
そう疑いました。
当時、海外企業から法律相談が来ること自体が信じられなかったのです。
何度かやり取りを重ねるうちに、その会社も、その紛争も、実際に存在することが分かりました。
そして私は初めて気付きました。
自分が書いた記事が、何千キロも離れた場所にいる誰かに届いていたのです。
その瞬間、私の考え方は変わりました。
書くことが使命になった瞬間
最初は、中国法を紹介したいだけでした。
しかし、次第に私はもっと大切なことに気付きました。
外国企業が求めているのは法律知識だけではありません。
中国を理解できる人でした。
法律だけではなく、中国の商習慣や実務を説明できる人でした。
そのときから、文章を書くことは単なる趣味ではなくなりました。
私の仕事の一部になりました。
すべての企業を助けることはできません。
しかし、次に困る誰かのために記事を書くことはできます。
それは今でも変わりません。
信頼は最初の相談より前に始まる
多くの人は、弁護士と依頼者が初めて会ったときに信頼が始まると考えています。
しかし、私の経験は違います。
信頼はもっと早く始まります。
誰かが答えを探し、
記事を読み、
新しい知識を得て、
「この人は見返りを求めず情報を共有している。」
そう感じた瞬間から始まるのです。
私の多くの依頼者は、
最初のメールより前に、
最初の電話より前に、
最初の委任契約より前に、
私の記事を読んでいました。
今振り返ると、私は中国法を書いていたのではありません。
少しずつ、
国境を越えた信頼を築いていたのです。
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← Introduction:なぜ私はこの本を書いたのか
→ 第2章 私の職業観を形作ったもの
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