中国企業から売掛金を回収する方法
弁護士による催告書から訴訟・強制執行まで実務を詳しく解説
中国企業との取引が拡大する一方で、「商品は納品したが代金が支払われない」「何度催促しても担当者から返事がない」「判決を取得しても本当に回収できるのか」といったご相談を日本企業から数多くいただきます。
中国では法制度が整備されており、売掛金や契約代金などの債権について裁判所を利用した回収手続を行うことが可能です。しかし、実際の債権回収では判決を取得することがゴールではありません。最も重要なのは、判決や調停書に基づいて実際に債権を回収する「強制執行」の段階です。
本記事では、中国における一般的な債権回収の流れを、弁護士名義の催告書から交渉、訴訟、裁判所の調停、そして強制執行まで、実務の観点から分かりやすく解説します。また、相手方に目立った財産が見当たらない場合に中国の裁判所がどのような措置を講じるのか、さらに弁護士が執行手続において果たす役割についても詳しくご紹介します。
1.まずは弁護士による催告書の送付を検討する
中国企業との取引で代金の支払いが滞った場合、直ちに訴訟を提起する必要があるとは限りません。
実務では、まず弁護士名義の催告書(リーガルレター)を送付し、任意の支払いを促すケースが多く見られます。
催告書には次のような効果があります。
- 相手方に法的措置を検討していることを明確に伝えられる
- 訴訟に発展する前に交渉の機会を与えられる
- 支払請求を行った証拠として残る
- 今後の遅延損害金や訴訟手続において有利な事情となる場合がある
中国では企業の信用や社会的評価を重視する経営者も少なくありません。そのため、取引先からの督促よりも、弁護士事務所から正式に送付される催告書の方が大きな心理的効果を生むことがあります。
また、催告書には一括払いだけでなく、分割払いの提案や和解交渉の意思を示す内容を盛り込むことも可能です。
2.交渉・和解による解決
催告書に対して相手方から回答があった場合、まずは交渉による解決を目指します。
実務上、和解契約には次のような内容が盛り込まれることが一般的です。
- 支払期限
- 分割払のスケジュール
- 遅延した場合の違約条項
- 代表者や関連会社による保証
- 債務の存在を認める条項
中国では、裁判外での和解だけでなく、訴訟中や判決後の執行段階においても裁判所主導の調停制度が広く利用されています。
裁判所で成立した調停には判決と同等の法的効力があり、相手方が約束どおり支払わない場合には、新たな訴訟を提起することなく、そのまま強制執行を申し立てることができます。
そのため、双方に歩み寄る余地がある場合には、時間や費用を抑えられる解決方法として調停が選択されることも少なくありません。
3.中国で訴訟を提起する場合
交渉がまとまらない場合には、中国の人民法院へ訴訟を提起することになります。
一般的には、次のような資料を証拠として提出します。
- 売買契約書
- 発注書・注文書
- 請求書
- 納品書
- 銀行送金記録
- メールやチャットなどのやり取り
- 未払金額を証明する資料
訴訟は通常、被告所在地または契約履行地を管轄する人民法院で審理されます。
裁判所は提出された証拠を審査し、必要に応じて口頭審理を経て、判決または調停書を作成します。
もっとも、日本企業が理解しておくべき重要な点は、「勝訴判決=回収成功」ではないということです。
実際には、多くの案件で判決後も相手方が任意に支払わず、強制執行の申立てが必要となります。
4.中国の強制執行制度が債権回収の成否を左右する
中国における債権回収では、強制執行こそが最も重要な手続といえます。
判決や調停書が確定したにもかかわらず、債務者が任意に支払いを行わない場合、債権者は人民法院に対して強制執行を申し立てることができます。
現在、中国の裁判所は全国的な財産情報検索システムを利用しており、債務者名義の銀行口座、不動産、自動車、持分、株式など、多くの財産情報をオンラインで調査することが可能です。
財産が確認されれば、裁判所は速やかに口座の凍結や預金の差押え、不動産・機械設備・車両などの差押えや競売手続を実施します。
このような執行制度は近年大きく強化されており、日本企業が想像する以上に幅広い強制措置が認められています。
5.相手方に財産がない場合はどうなるのか
日本企業から最も多く寄せられる質問が、「相手方に財産がなければ、判決を取得しても意味がないのではないか」というものです。
確かに、強制執行は債務者の財産を対象として行われるため、直ちに換価できる財産が見つからなければ、短期間で全額を回収することは容易ではありません。
しかし、現時点で財産が確認できないことと、将来にわたって回収できないことは同じではありません。
中国では近年、執行制度が大幅に強化されており、裁判所は継続的に財産状況を調査するとともに、債務者に対してさまざまな法的制裁を講じることができます。
(1)継続的な財産調査
執行開始時点で十分な財産が見つからなかった場合でも、裁判所は必要に応じて財産調査を継続します。
例えば、その後に債務者が新たな銀行口座を開設した場合や、不動産・車両・株式などを取得した場合には、改めて執行の対象となる可能性があります。
一時的に資産が不足している企業であっても、事業の回復によって将来的に回収できるケースは少なくありません。
(2)失信被執行人制度
中国には「失信被執行人制度」と呼ばれる独自の制度があります。
判決や調停書に従って支払う能力があるにもかかわらず履行しない者は、裁判所の判断により「失信被執行人名簿」に登録されることがあります。
この制度は、日本でいう信用情報の登録とは異なり、企業活動や社会生活に広く影響を及ぼす可能性があります。
例えば、
- 金融機関からの融資
- 政府調達への参加
- 入札資格
- 企業の信用評価
- 取引先からの信用
などに悪影響が生じることがあります。
そのため、実際には名簿への掲載を避けるために、執行段階で和解に応じる企業も少なくありません。
(3)高額消費の制限
裁判所は、債務者や一定の場合には法定代表者に対し、高額消費を制限する措置を命じることがあります。
例えば、
- 航空機の利用
- 高速鉄道の上位座席の利用
- 高級ホテルへの宿泊
- 高額な娯楽・消費活動
などが制限される場合があります。
企業経営者にとっては、日常の経営活動にも一定の影響を及ぼすことがあるため、心理的なプレッシャーとなるケースもあります。
(4)財産の申告義務
執行手続では、裁判所が債務者に対し、自ら保有する財産を申告するよう命じることがあります。
虚偽の申告や財産の隠匿が判明した場合には、過料や拘留などの司法上の制裁が科される可能性があり、悪質な事案では刑事責任が問題となることもあります。
(5)財産隠しへの対応
債務者の中には、訴訟や執行を見越して財産を親族や関連会社へ移転するケースもあります。
そのような場合でも、財産移転の時期や目的、取引内容などを調査することで、別途法的措置を講じられる可能性があります。
したがって、「財産が見当たらない」という理由だけで回収を諦めるべきではありません。
6.強制執行において弁護士が果たす役割
「強制執行は裁判所が行うのだから、弁護士は必要ないのではないか」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、実務では弁護士の関与によって回収結果が大きく左右されることがあります。
財産調査
弁護士は公開情報や企業情報を分析し、
- 登記情報
- 株主構成
- 関連会社
- 過去の訴訟
- 過去の執行事件
などを調査し、執行につながる手掛かりを収集します。
裁判所への情報提供
執行担当裁判官は多数の事件を同時に処理しています。
債権者側から具体的な財産情報を提供することで、執行手続がより迅速に進むことがあります。
和解交渉
銀行口座の凍結や信用上の制限が開始されると、これまで支払いに応じなかった債務者が交渉に応じるケースも少なくありません。
弁護士は、分割払いの条件や担保の取得などを含め、実効性のある和解案を検討します。
財産移転への対応
財産隠しや不自然な資産移転が疑われる場合には、関係資料を分析し、必要に応じて追加の法的手続を検討します。
7.強制執行にかかる費用
強制執行の申立てには裁判所へ一定の手数料が必要となります。
もっとも、執行が成功した場合には、その費用を債務者が負担することとなるケースも多く見られます。
また、弁護士費用のほか、
- 財産調査費用
- 翻訳費用
- 公証・認証費用
などが必要となる場合があります。
案件の内容によっては、固定報酬と成功報酬を組み合わせた料金体系を採用する法律事務所もあります。
8.日本企業へのアドバイス
中国企業との取引では、未払いが発生してから長期間放置することは避けるべきです。
時間の経過とともに、
- 財産の移転
- 会社の営業停止
- 関係者との連絡不能
など、回収を困難にする事情が生じる可能性があります。
そのため、支払遅延が発生した段階で速やかに弁護士へ相談し、催告書の送付や証拠の整理を進めることが重要です。
また、契約書、注文書、請求書、納品書、送金記録、メールなどは、訴訟や執行において重要な証拠となるため、日頃から適切に保管しておくことをお勧めします。
まとめ
中国における債権回収は、催告書の送付から交渉、訴訟、調停、そして強制執行まで、複数の段階を経て進められます。
なかでも最も重要なのは、判決を取得した後の強制執行です。
中国の裁判所は、銀行口座や不動産などの財産調査・差押えに加え、失信被執行人制度や高額消費制限など、債務者に対して幅広い執行措置を講じることができます。
たとえ執行開始時点で十分な財産が確認できなくても、継続的な財産調査や適切な法的対応によって、将来的に回収できる可能性が残されているケースもあります。
中国企業からの売掛金回収では、判決を取得することだけでなく、執行段階まで見据えた戦略を立てることが、回収成功への重要なポイントとなります。