中国企業や中国の事業者に対して債権回収を行う外国企業は、通常、借主本人や会社のみを対象として考えます。しかし、中国法では一定の条件を満たす場合、借主の配偶者も返済責任を負う可能性があります。
もっとも、結婚しているという事実だけで配偶者が当然に責任を負うわけではありません。
配偶者が返済義務を負うかどうかは、中国民法典の規定および具体的な事実関係によって判断されます。
原則
中国民法典では、一方の配偶者が負った債務が当然に夫婦共同債務となるわけではありません。
債権者は、通常、以下のいずれかの要件を立証する必要があります。
1. 配偶者も借入書類に署名している場合
最も典型的なケースは、夫婦双方が借入契約書、保証契約書、借用証書などに署名している場合です。
中国法では、これは夫婦双方による共同意思表示と考えられます。
この場合、通常は夫婦双方が共同債務者となり、連帯して返済責任を負います。
債権者にとっては、契約締結時に配偶者の署名を取得することが、将来の回収リスクを大きく軽減する方法となります。
2. 配偶者が後から債務を承認した場合
当初は借主のみが契約したとしても、その後、配偶者が債務を承認した場合には共同責任が成立する可能性があります。
例えば、
- 債務確認書への署名
- 返済合意書への署名
- 返済を約束する書面の作成
- 和解交渉において返済義務を明示的に認めること
などが該当します。
このような場合、配偶者も借主とともに返済義務を負う可能性があります。
3. 日常家事に必要な債務
中国民法典では、夫婦の日常生活に必要な範囲で負担した債務については、夫婦共同債務となる場合があります。
例えば、
- 生活費
- 子どもの教育費
- 医療費
- 通常の家庭支出
などのための借入れがこれに該当します。
この場合、一方の配偶者のみが契約していても共同債務となることがあります。
企業経営者の借入れはどうでしょうか
外国企業にとって特に重要なのは、企業経営者による借入れです。
例えば、
- 製造業
- 貿易会社
- 輸出入会社
- EC事業
- その他の民営企業
を経営する個人が、自らの名義のみで事業資金を借り入れるケースです。
このような借入れについては、配偶者は結婚しているという理由だけで当然に返済責任を負うわけではありません。
裁判所は、例えば以下の事情を総合的に判断します。
- 配偶者が借入れを承認したか
- 配偶者が契約書に署名したか
- 借入金の用途
- 事業利益が家庭生活にどの程度利用されていたか
日常生活の範囲を超える債務
中国民法典では、一方の配偶者が自己名義で負担した債務が夫婦の日常生活の必要を超える場合、原則として夫婦共同債務とは認められません。
多額の事業資金の借入れは、この類型に該当することが少なくありません。
例えば、工場設備の購入や工場拡張のために数百万元を借り入れた場合、配偶者が契約に関与していなければ、債権者が配偶者に返済を請求することは容易ではありません。
このような訴訟では、立証責任が極めて重要になります。
外国企業への実務上のアドバイス
外国企業が中国企業やその経営者に対して信用供与を行う場合には、
- 必要に応じて配偶者にも契約書や保証書へ署名してもらうこと
- 実際の経営者や支配構造を確認すること
- 借入金の用途を確認・記録すること
- 証拠を十分に保存すること
などの対応が、将来の債権回収に役立つ可能性があります。
まとめ
中国では、企業経営者の配偶者が当然に事業上の借入金について責任を負うわけではありません。
しかし、配偶者が契約に署名した場合、後日債務を承認した場合、または中国民法典上の夫婦共同債務に該当する場合には、配偶者にも返済責任が認められる可能性があります。
外国企業が中国の民営企業や経営者と高額な取引を行う際には、契約締結前から夫婦共同債務に関するリスクを理解し、必要に応じて中国の弁護士へ相談することが、債権回収の可能性を高める重要なポイントとなります。
執筆弁護士
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